hayamihoのブログ

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故郷

その街へは、南禅寺の横にポッカリとあいた穴をくぐると行くことができる。

 

穴をくぐったら、やがて現れる青い道を、ひたすらまっすぐ、まっすぐ。

 

「ここから10キロ先までは、十分運転に注意してください。」

 

海かとおもったら湖で、タヌキと忍者の山を越え、いざ俗地へ。

 

ひと回りしたDVDがレッチリのCan't StopのPVに戻ると「あ、バカな歌がまた始まった」と子どもが言い、雨はさらに激しさを増す。

 

好きで好きでたまらなかった人たちも、

大嫌いで顔もみたくなかった人たちも、

別にどうという印象のなかった人たちも、

まだそのままそこにいた。

 

影だ。

 

これは影だ。

 

でも、触れようと近づくわたしを、氷のように冷たい刃で斬り捨てるこの影には実体があり、わたしの身体からは血が流れた。

 

目からも。鼻からも。

 

桜が満開だった。 

 

病気の女が電話してきて、いまちょっと近くのコンビニにいるんだけど、と言う。

 

もう連れて帰るから、と断ったはずなのに。

 

なぜなのか。

 

結局とられた人質の解放を待ち、

雨の立駐で過ごすクソみたいな数時間。

することもなく、行く場所もない。

 

「うちでなら遊んでもらってもいいけど」

 

チワワみたい。

寂しさにいつも震えて、

華美に着飾り、

山のように積まれたDVDと、

テレビだけの部屋に夜まで置き去りにされる、あのかわいそうな子。

ブルブル震えながら、

小さな子をいじめ、

むりやり取り上げた幼児用サイズの浮き輪でプールに飛び込み、

擦りむいた足をひきずりながら、

もう歩けない、と、

スアレス並みのシミュレーションで全員を無理やり帰路に着かせたあの子の母親。

 

いつも家にいない。

 

そして置き去りにするわが子に与える最高のオモチャは、家に呼んでもいいよ、と言いながら充てがうオトモダチ。

 

迎えに行く。
わが子を。

 

離婚して、家はそのまま彼女のモノになり、

表札だけが書きかえられていた。

 

ピンポーン、

 ”オモチャじゃないので、返してください。”

 

病気の女はやはり不在で、頭にでっかいリボンのついたチワワみたいな女の子がひとり出てきた。

 

胸が痛む。

 

忘れていた。

 

またこんな光景を見なくてはならないのか。

 

誰もいない大きな家と、

たったひとりで取り残される、歪んだ笑顔の小さな女の子。

 

ありがとう、帰ってきたらまた遊ぼう、バイバイ、と言い合う女子ふたりを引き離す。

 

雨はますます激しくなり、

 

そしてわたしは1日早く嘘をつく。

 

フライングで反則だったけど、警告は受けず。

アドバンテージか。

 

どこかで必ず帳尻合わせが来るだろう。

 

神様。

 

ああ、この街は辛い。辛すぎる。

 

ふと、南禅寺のあの入り口を思い出す。

 

そして不安になる。

 

夢ダッタラドウシヨウ。

 

あれは、マボロシ…?

 

夜が明けて、わたしは祈る思いで青い道を駆け戻る。

 

「ここから10キロ先までは、十分運転に注意してください。」

 

背後の平野にぼんやりと立ち並ぶバビロンの塔みたいな、あの巨大なお金の化身たちが追いかけてきませんように!

 

振り向いてはいけない!

 

呪文を唱えながら、ひたすら走る。

 

”バカと煙は上が好き”

”バカと煙は上が好き”

”バカと煙は上が好き”

そうだ、あれは影ではなかったんだ。

 

あれは、ただのバカか、煙だ。

 

煙だったら、なくなれ!

 

やがてわたしは小さな橋を越え、南禅寺に辿り着く。

 

うしろで眠っている子どもたちの顔と、

いま目の前にある町の風景をかわるがわる確認して、

ホッとひといきつく。

 

ああ、

山がある。

鳶がいる。

道が狭い。

タバコ屋があり、

豆腐屋がある。

炭屋が炭を積み、

人が人らしく暮らしている。

 

そして夕日は山際を赤く染めている。

 

「目的地に到着しました。案内を終了します。」

 

ああよかった。